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開館1周年記念 「名誉館長 若田光一宇宙飛行士と語る会!」レポート

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福岡市科学館 名誉館長の若田光一宇宙飛行士が来館されました!

 2018年10月21日(日)に、福岡市科学館の名誉館長であるJAXA 若田光一宇宙飛行士をお招きして開館1周年記念「名誉館長若田宇宙飛行士と語る会!」を開催しました。
 第1部[小学生・家族部門]と第2部[中・高・大学生・大人部門]の2部構成で、第1部は「未来を担う君たちへ」、第2部は「有人宇宙活動の現状と展望」をテーマに講演いただいた後、質問タイムの時間を設けました。
 1996年1月の搭乗からこれまでに4回宇宙に滞在された若田宇宙飛行士。日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在、国際宇宙ステーション(ISS)コマンダーを務めるなどご活躍され、現在は宇宙航空研究開発機構理事(有人宇宙技術部門長兼務)に就任されています。
 若田宇宙飛行士と語る会という今回のイベントには、1,800名以上もの大変多くの方からご応募をいただきました。ご応募いただいた皆様、ご参加いただいた皆様、開催にご協力いただいた皆様、そしてお忙しい中お越しくださった若田光一宇宙飛行士に、心より感謝申し上げます。

クリエイティブスペース プロデュースコンテストイメージ1

クリエイティブスペース プロデュースコンテストイメージ2
クリエイティブスペース プロデュースコンテストイメージ3

今回、皆様から多くの質問をいただきました。そのうちのいつくかをご紹介いたします。

【第1部】

「宇宙でしかできなくて、一番楽しかったことは何ですか?宇宙ではできなくて一番したかったことは何ですか?そして実際に宇宙へ行って、想像と違ったことがあれば教えてください。」

 宇宙でやってみたいことはたくさんありましたが、その中でも特にやってみたかったのは無重量環境の宇宙で自由自在に飛び回るということです。小さい頃、夢の中で空を飛ぶ夢を何度もみたことがあったんです。実際宇宙にいってみるとその時の感覚に近い感じで、体がふわっとまっすぐに飛んでいくことが楽しかったです。宇宙でできなくて一番したかったことは、お風呂に入ることです。お風呂が大好きなので、恋しかったです。想像と違ったことは、人間の体が思った以上に早く新しい環境に適応することでした。宇宙へ行って、無重量環境は最初は不思議な感じがしましたが、すぐに慣れました。

「宇宙飛行士になるために、今できることはありますか?」

 宇宙でやってみたいことはありますか?まず、宇宙に行って何をしたいのかを考えることが大切だと思います。目標が明確になれば、そのために今何をすべきかがわかってきます。宇宙で実験がしたいなら様々な自然科学を学び、宇宙船を 操縦 そうじゅう するためには航空機等の操縦経験も役に立つでしょう。宇宙では一人できる事は限られています。チームで共通の目標に向かって行動できるためのチームワークを大切にできる資質も大切です。がんばってくださいね!

どうしたら外国の方とうまく話せるようになるのでしょうか。

 宇宙飛行士になる上で一番苦労したのは外国の方とのコミュニケーション、仕事に必要な語学能力を習得することでした。小さい頃からずっと日本語で生活していたので、一生懸命努力しても英語はすぐには上達しませんでしたが、 語彙 ごい 力、 聴解 ちょうかい 能力、会話能力など、自分に足りないのが何かを見つけ、それを向上させるためにできる事を徹底的に継続して行う事が不可欠だと思います。また語学を積極的に勉強する事もとても大切ですが、コミュニケーションでとても大切な事は相手の気持ちを考え、思いやりをもつことだと思います。その人はどういう国でどういう文化や習慣、歴史背景の下で育ち、どういった生活をしてきたのかを知ることや、逆に自分の育った国の文化や習慣等についてきちんと相手に伝えられるようになることで外国の方とのコミュニケーションがとりやすくなると思います。

危険に対する怖さをどうやって乗り越えましたか?

 怖さがあるのは当然ですが、ほとんどの恐怖は「知らないこと」「無知」からきていると思います。何か難しいことだとか恐怖に直面した時には、なんでそうなっているんだろう、その怖さはどこからきてるんだろうという怖さの原因を知って、克服するために努力することで前に進んできました。怖くなったら逃げるのではなく、恐怖の原因を突き止め、克服する努力をすることが大切だと思います。

宇宙にいくと骨がもろくなると聞きました。地球へ帰ってきて変化は大きかったですか?どのくらいで元に戻りましたか?

 国際宇宙ステーション(ISS)に半年間滞在しましたが、毎日2時間程運動をしていたので骨はもろくなりませんでした。また、骨が弱くなる骨粗しょう症の薬が宇宙の無重量環境でも効果があるかを調べる実験にも参加しましたが、運動と薬の効果で地球に戻った時には骨の密度がむしろ高くなっている体の部位もありました。
 かなり以前の宇宙長期滞在飛行では、宇宙での運動器具が不十分であった事もあり、地上への帰還後体力回復には長期間掛かった場合がよくありました。現在のISSには運動器具が整っているので、私の場合、地球帰還直後から歩いたり走ったりする事ができ、地球に戻って数時間はなんとなくふらふらする感じはありましたが、一日、二日で元に戻りました。食事・運動・睡眠など、基本的なことに気をつけて生活していれば地球でも宇宙でも体の健康を保つことができると思います。

宇宙でも地球にいる時と同じくらいの時間に寝るのですか。また、夢に何か違いがありましたか。

 国際宇宙ステーション計画は15か国が参加していますが、運用に関してはグリニッジ標準時を使用しています。朝6時に起きて、21時半が就寝時間です。熟睡タイプなので普段は夢をみることは少ないですが、宇宙では自分のミッションに失敗する夢を数回みました。地上での生活ではなかったことです。一生懸命努力をして訓練はしたものの、不安が残っていたりするとそれが夢ででてくるということを宇宙で感じました。幸い宇宙や地上管制局の仲間と力を合わせて仕事ができたので、無事に人工衛星をロボットアームで捕まえるなどの仕事を完了できました。尚、宇宙では寝袋で寝ます。その中でふわふわ浮かびながら、自分の体じゅう全くどこにも圧力を感じず寝心地は最高でした。

宇宙で花は咲きますか?

 2016年にはISSで百日草の花を咲かせる実験が行われていて、きれいに咲いていました。宇宙で植物を育てる実験は多いですが、花についてはまだ実験の数は少ないです。ぜひ実際に宇宙へいって、色んな種類の花を咲かせて育ててもらえたらいいなと思います。宇宙は機械など無機質なものが多いので、動物や植物にもっと愛着がわくようになりました。

【第2部】

宇宙に行くときに日本人として意識したことは何ですか?

 たくさんありますが、初めて国旗がついている訓練服を着た時に、日本は国際宇宙ステーションのアジアの唯一の参加国であり、日本以外の国からも期待されていると感じ、宇宙はみんなのものであり、宇宙の利用がひろがるようにがんばりたいと思いました。日本の名に恥じないように仕事をしなければならないという思いでした。普段あまり夢をみないのですが、宇宙にいって初めてみた夢は、1996年1月に日本の人工衛星をスペースシャトルでつかむことがミッションだった時です。人工衛星をつかみそこなう夢をみました。私の恐怖はロケットが怖いのではなく、一番怖いのは、自分が宇宙で失敗することでした。
 とはいうもののがんばるしかなくて、全て自分が果たさなければいけない訓練をきちっと全部やって、納得してその仕事にのぞむということで恐怖からは解消されたなと思います。たしかに緊張するというのはありましたが、だからこそ訓練を充実させるというところに全力投球できたのかなと思います。

宇宙飛行士になるために若田さんが犠牲にしたことはありますか?また、それはどのようなことですか?

 人生は優先度の決定とバランスが大切だと思います。それをどう選ぶかはそれぞれの人の価値観により異なります。ただ、自分がどう進みたいという人生の優先度というのは、きちんと自分で納得していかないと、後で自分の中でも 葛藤 かっとう があります。人生の優先度をきちんと定めて、それを家族含めて納得してもらうのが大切だと思います。
 宇宙ステーションに半年滞在する時はまだいいですが、その前に2年半程世界各国で訓練をすることがあります。ロシアに出張している時は、自分の試験勉強もある中、スカイプでこどもの宿題をみていました。世の中にはいろんな仕事があって、家族と一緒過ごす時間が少なくなるケースもあるかと思います。逆に限られた時間できちんとコミュニケーションをして、言いたいことを伝えあえるよう一緒にいれる時間を大切にしようという気持ちが強くなったのもやはり出張が多かったからかなと思います。同じような仕事があるかと思いますが、家族の理解があって初めてできることであり、宇宙飛行士も同じ仕事の一つなのかなと思います。家族には本当に感謝しています。

私は、九州大学の鳥人間チームに所属しています。そこで、同じサークルに所属しておられた若田さんに質問です。鳥人間での活動で起こったエピソードを教えて頂けたら嬉しいです。

 鳥人間チームで徹夜に近いかたちで飛行機をつくる時など、疲れが出てくる明け方になると必ずその人の本性がでてきます。宇宙でも訓練、暑い時や寒い時、難しい作業をしたり何かトラブルが起きた時、その人の本性がでてくるんです。相手がどういう人かを理解し、同時に自分の本性をさらけだして相手に自分がどういう人かをわかってもらうことで、チームとしてどうやってまとめていったらいいかという事もわかりますし、それは鳥人間でも感じたことだったと思います。
 チームで何かを成し遂げるには色んな方法があるかと思いますが、その経験は将来、必ず色んな仕事や活動で役に立つと思います。鳥人間チームでは、当時限られた資金しかなく、試験飛行を十分できませんでした。でも本当にきちんと飛ぶかを確認しておかないと本番に弱いので、海岸で飛行機をもっていってとばしてみたら、風が強くて翼が折れてしまったり。でもその経験があったので、準備を周到にするということ、本番と同じような環境で試験をすることの大切さを学びました。これはどんな宇宙船でも同じです。ものづくりに挑戦し、失敗した時には多くの事を学び、原因を突き止めて次につなげる事の大切さ、それが鳥人間で学ばさせていただいたことです。

船酔いしやすい人でも宇宙旅行にいけるのでしょうか。また、医療の仕事をしているのですが、宇宙で風邪をひくことはありますか。ウイルスは存在するんでしょうか。健康管理において、血圧や体重測定はできるのでしょうか。

 宇宙酔いになる人は3~4割程だと思います。宇宙で私は4回とも1度も酔ったことはないですが、飲み薬なども宇宙で準備されており、宇宙酔いになっても1日か2日程度で回復して長い間は続かないので、宇宙酔いについてあまりご心配される必要はないのかなというように思います。
 宇宙に行く前にインフルエンザなどに感染していない事を確認するために、打上げ前に1~2週間位の検疫・隔離期間があります。ですから宇宙に行ってからウイルス性の病気に感染するということはありません。宇宙では血圧や心拍数、体温、体の質量、眼圧等を定期的にチェックし、毎週1回専任の医師とのTV会議での面談を行って宇宙で健康状態を維持しています。

宇宙飛行士を目指して若田さんと同じ大学学部で勉学に励んでおりますが、大学時代にこれはしておいた方がよいということがあればアドバイスをしていただきたいです。

 宇宙で何をやりたいかということを自分できちんと考えながら宇宙を目指すことが大切だと思います。私は運良くこの仕事に就けましたが、宇宙飛行士にたとえなれなくても、自分が積み重ねてきたこと、目標を持って学んだことは将来のために必ず役に立つと思います。宇宙で何をしたいのかという目標を明確に持てば、そのために必要な知識や技量を習得する過程で経験する事や、宇宙を目指して取り組む様々な業務経験などが必ず将来の糧になるでしょう。それらは宇宙飛行士になった時にも必ず役に立ちます。失敗してもいいんです。自分にはその時は辛くてなかなか分かりませんが、失敗しても、諦めずに失敗を乗り越えて努力する時が一番成長している時だと思います。2度同じ失敗を繰り返さないよう、教訓として次につなげていくことが重要です。失敗を恐れず、目標を高く持ってがんばって下さい。

  ■ 宇宙飛行士になろうと思った時に、一番最初に何をしたいというふうに目標をもたれていたんですか。

 本当単純ですが、やっぱり宇宙にいってみたいということだけです。5歳の時にアポロ11号のアームストロング船長が人類として初めて月に降り立った当時、毛利さんや向井さんをはじめ日本人宇宙飛行士がまだいなかった事もあり、日本人の私に取って、宇宙飛行は手の届かない所にある夢のように感じていました。日本の宇宙開発事業団(現JAXA)の宇宙飛行士候補者募集を新聞で知り、選抜試験を経て幸運にも1992年に宇宙飛行士候補者に選ばれました。しかし、厳しい訓練を経てスペースシャトルのミッションスペシャリストという資格を取れない限り、宇宙にいくことはできません。スペースシャトルの各システムやロボットアーム、船外活動などミッションスペシャリストに認定されるための様々な訓練があり、英語が理解できなくて苦しんだ時期もありましたが、どうしても宇宙に行くための資格を取るんだという明確な目標をもち、熱い思いで訓練に臨めたからこそ、頑張り通せたのだと思います。

若田さんは、宇宙飛行士になるまででくじけそうなときややる気が出ない時、どのようにやる気をだしたり、モチベーションを保ちましたか。宇宙開発に興味のない人へ宇宙開発の重要性やすばらしさを簡単に説明する時、どんな話がわかりやすく、伝えやすいのでしょうか。

 失敗した時が一番成長している時なんですが、その時にはなかなかそうは思えないんですよね。だからその時はなるべく原点に戻ります。宇宙に誰かがいくことで人類みんなが色んな面で役に立つだとか、自分がやってることの意味とかそういったところに戻って考えると、じゃあこの失敗を克服するためにはどんなことを考えたらいいかなということにつながっていくと思います。習字やピアノなどいろんなお稽古ごと、勉強、スポーツだろうがなんでもなぜ自分がこれをやってるのかなっていう原点をきちんと考えながら生活していくと、失敗した時にもう一回振り返ってモチベーションを高められるのかなと思います。
 心にひびくことってきっとそれぞれで違うと思いますが、宇宙に行くことで、色んな未来が開かれます。 宇宙のすばらしさをお伝えするためには、なぜすばらしいか、世の中の色んな課題を解決する時に、宇宙が役に立っているか、宇宙に行く価値があるかということをお話しします。 人それぞれで心に響く内容っていうのが違うと思いますが、皆さん一人ひとりにどんなふうに役に立っているのかということ、それが物質的に役に立っているということと精神的に心にどう響いているかということを伝えるのが重要かなと思います。

リラックスしたいときとかリフレッシュしたい時に、何か趣味とかありますか。

 運動ですね。ジョギングをしたりとか、テニスをしたりとか、野球をしたりとか。特にジョギング。今朝も運動ジムでトレーニングして、あとは博多区を走ってきました。もう1度宇宙にいきたいなと思っているので。ジョギングする時ってからだもリラックスしますし、あとはやっぱり色んなことを考えて、思いつめて仕事のことじゃなくて、ちょっと一歩後退して今日どうかな、明日どうかな、来月どうかなということを考えます。少しリラックスしてビッグピクチャーをとらえるためには、いい機会かなと思っています。体を動かすことは私のリラクゼーションの一つかなと思います。

私は色んな国の人と友達になりたいんですが、初めて話しかける時はいつも何をはなしかかけるべきか迷ってしまいます。違う国の人と仲良くなる時に若田さんが実際によく使う方法や話題があれば教えてください。

 これまで海外で仕事をしている時や生活したり住んだりしたところで、色んな外国の方とお話しする機会がありましたが、逸話や小話みたいなものはどこの国にも喜ばれるので、そういう話をするとみんなが興味をもってくれるのかなと思います。どんな話でもいいのですが、特にロシアなんかはいろんな 逸話 いつわ を話すのが習慣になってたりします。笑いがでるだけでリラックスできて、こいつおもしろいなとかっていうのがあります。その国の文化、習慣を知るっていうのは大事ですし、自分達の文化の中でおもしろいとか楽しいとかって思われているようなものを紹介するのはコミュニケーションを始めるにはいい題材じゃないかなというふうに思います。それは最初だけじゃなく交友関係を続けていくなかで、仕事をしていく中であってもいつでも使えますし、特に仕事で 緊迫 きんぱく したようなときとか、会議なんかでもかなりヘビーな話題をしている時にちょっとそういう話をするだけでみんながリラックスできてチームの結束も強まります。ユーモアを大切にするのも会話の鉄則、鍵じゃないかなというふうに思います。色々調べて頑張ってください。


 イベントの中で、若田光一宇宙飛行士は「福岡市科学館で、さらに多くの皆さんに科学する楽しさを深めていただければと思っています」「ぜひ国際宇宙ステーション、さらにその先の月や火星での宇宙活動で一緒に仕事をしてくれる仲間がでてきてくれたらなと思います」と話されていました。
 福岡市科学館は2018年10月1日に開館1周年を迎え、当館はこれからも、皆様に楽しみながら学んでいただけるよう、常に進化する科学館を目指し、そのような科学館を市民の皆様と一緒につくりあげてまいります。
今後ともより一層のご愛顧とご支援をお願いいたします。

若田光一名誉館長コーナーのご案内


https://www.fukuokacity-kagakukan.jp/news/kouichiwakata_201810-5.jpg
イベント当日、6階「若田光一名誉館長コーナー」前で記念写真を撮影しました!

こちらのコーナーのテーマは「One Day at ISS」。
ISSでの1日をテーマに名誉館長 若田光一宇宙飛行士が宇宙で実際に使用されたものなどを展示しています。
若田光一宇宙飛行士が学生の頃に勉強されたノートなど、普段は見ることができないものもご覧いただけますので、ぜひお立ち寄りください。

[時間]9:30~21:30
[場所]6階(ドームシアター横)
[料金]無料