[コラム]ヒトは「ホンモノ」を見抜けるのか

~ 特別展「キボリノコンノ展」に寄せて ~
ヒトは「ホンモノ」を見抜けるのか
私たち人間は、視覚・聴覚・触覚などの多様な感覚を駆使して、日々、外界を理解しようとしています。見えたもの、聞こえたものに対して、じっくりとその正体を見極めることもありますが、実際には多くの場面で「ヒューリスティック」と呼ばれる直感的かつ迅速な判断が用いられています。それでも驚くべきことに、大抵の場合は見事に的中しているのです。ところが時には、その直感が大きく外れることもあります。こうした「意外な展開」は、驚きや落胆だけでなく、新鮮な驚きや面白さとして心に残ります。
一方で、人間は重要な判断を下す際には、より慎重になります。視覚だけでは判断が難しいとき、対象を手に取ってみたり、匂いを確かめたり、角度を変えて眺めたりと、他の感覚を動員して多角的に情報を集めます。この「感覚の総動員」が、真偽の見極めに大きく貢献しているのです。
そしてそれは、作品をつくる側にとっても同じです。制作者たちは、ただ「見せる」ことにとどまらず、「どのように感じられるか」「どんな質感や味わいが想像されるか」といった、複数の感覚を意識しながら創作に取り組んでいます。
つまり、「ホンモノ」を見抜くには、一つの感覚だけに頼らず、複数の視点や感覚を活用することが大切です。私たちに備わっているこの多感覚的な判断力こそが、「見る目」を育ててくれるのかもしれませんね。
九州大学 アジア・オセアニア研究教育機構
凖教授・社会クラスター副クラスター長

