石川賢治さんインタビュー[撮影のアプローチ]

※ 本文中では敬称を略し、「石川賢治氏」は「石川」と表記しています。

「月下美人」静岡県伊東市
科学館:月光写真を撮影している際には、どのようなことを考えていらっしゃるのですか
石川: 月光写真を撮影しているときは、基本的には何も考えないようにしています。私の中にずっと流れている根底のテーマは「地上の宇宙実感」です。言葉で言えばそういうことになりますが、宇宙と地上とがつながっているその瞬間を写真に捉えるとき、「ああしよう、こうしよう」と頭で考えるのは、大いなる宇宙に対して人間の浅知恵になってしまうと思うのです。そのため、あれこれと理屈で考えるのではなく、その場で受ける「地上の宇宙実感」や「宇宙感覚」という生身の感覚そのものを何よりも大事にしながら、無心でシャッターを切るようにしています。

月光写真家・石川賢治さん
科学館:撮影の際、じっと長い時間を待つことに対して、苦労を感じることはないのでしょうか。
石川:
それは全く苦になりませんね。私が月光写真を始めた1984年当時は、デジタルカメラはまだ出始めたばかりで画質も極めて低く、とても夜間の撮影に使えるようなものではありませんでした。そのため、すべてフィルムカメラを使って撮影していました。
フィルムでの撮影は、デジタルと違って、撮ったその場では結果が見られません。撮影を終えて、現像所にフィルムを持っていき、仕上がってくるのを待つ必要があります。私はこの活動をほとんど自費で行っていましたから、当然ロケ費用もかかっていますし、「絶対に失敗したくない」という強いプレッシャーがありました。何の保証もない中で現像を待つ間のドキドキ感は凄まじいものでした。
しかし、だからこそ、現像が上がってきて思い通りに美しく写っていたときの嬉しさや感動は、その場で確認できるものの100倍以上に膨れ上がるのです。時間がかかるからこそ、そこに宿るワクワク感があるのだと思います。

「砂州」沖縄県竹富島
科学館:長年撮影を続けてこられて、環境の変化や、ご自身の心境の変化はありましたか。
石川:
長年自然と向き合っていると、地球の「気候変動」は身に染みて感じます。2010年頃から特に顕著ですが、植物の生態、たとえば桜の開花時期や紅葉の時期が大きくずれるようになり、このままでは紅葉の全盛期が年を明けてしまうのではないかと思わされるほど、地球の環境はおかしくなってきています。
しかし、それに対して「月」そのものは何万年、何億年と何も変わっていません。地球の環境が変わってしまっているだけなのです。ですから、私自身の月に対する見方や、撮影に向かう姿勢がブレることはありません。最初に感動した「地上の宇宙実感」というテーマを一貫して持ち続け、それを今も追い求めています。
ただ、機材やテクニックの面では大きな変化がありました。糸島に移住した頃から、主にデジタルカメラを取り入れるようになりました。それまでのデジタルはノイズがひどくて私の作品には使えなかったのですが、近年の技術革新によってその問題が完全に解決されたからです。
フィルムの時代は、感度がせいぜいISO 200や400でしたから、月の光を限界まで取り込むために、レンズの絞りを常に「開放(一番開いた状態)」にして、ひたすら長時間露光をするしかありませんでした。しかし現在のデジタルカメラは、ISO 10,000や15,000といった超高感度での撮影が可能です。これにより、フィルム時代には絶対に不可能だった表現ができるようになりました。

「月夜のカブトムシ」福岡県糸島半島
たとえば、手前のカブトムシにピントを合わせつつ、はるか遠くの夜空の星々にもくっきりとピントを合わせる「パンフォーカス」という撮影が可能です。フィルムでカブトムシにピントを合わせたら、背景の木や星はボケボケになってしまいますからね。
デジタルのおかげで表現の幅は大きく広がりましたが、私は撮影した画像の後編集(合成や色味の加工、トリミングなど)は一切行いません。最初からカメラに収まった1枚のまま勝負する「証拠写真」としての姿勢を貫いています。
今の時代、デジタル合成を使えば、宇宙のフリー素材を組み合わせて簡単に綺麗なイメージを作ることはできます。しかし、写真をいじればいじるほど、それを撮った人間の「立ち位置」や「目線(緊張感)」が消えてしまうと思うのです。私はドン・キホーテのようだと笑われるかもしれませんが、あえて触らない1枚の写真で、地表と宇宙が一つながりになった地上の宇宙実感を表現するという姿勢を最初からずっと大切にしています。
照明をおとした自然音の流れる会場で、"月光浴" をお楽しみください。
特別展「石川賢治月光写真展 月光浴 月夜の晩に」
特別展「石川賢治月光写真展 月光浴 月夜の晩に」
四季折々、満月の夜。
私たちは宇宙とつながっている。
1年に12回しかない満月の下で撮り続ける月光写真家・石川賢治。30年間の世界4大陸に渡る満月の旅を経て、2016年より福岡・糸島半島に住み、作品を撮り続けています。本展は、福岡・糸島を中心に、北海道から沖縄まで日本の春夏秋冬を舞台に月夜の情景を綴る写真展です。
月の光で撮影した写真と自然音が織りなす、
月夜の没入体験。
ほの暗く照明を落とした会場では、世界各地でのロケ撮影中に石川賢治が撮影する隣で録音された虫の声、さざ波、風の音など、満月の夜の自然音が流れます。昼間と違う表情の原風景の写真と自然音に包まれながら、宇宙とつながりに思いを巡らせてみませんか。
特別展「石川賢治月光写真展 月光浴 月夜の晩に」
[期間]2026年9月19日(土)~10月25日(日)
※休館日:9月24日(木)、29日(火)、10月6日(火)、13日(火)、20日(火)
[時間]9:30~18:00(入場は17:30まで)
[場所]福岡市科学館3階企画展示室

特別展 関連プログラム
■ ギャラリートーク[詳細はこちら]
日時:2026年9月27日(日)、10月9日(金)、10月21日(水) 各日14:00~
■ サイン会[詳細はこちら]
日時:2026年9月27日(日)、10月9日(金)、10月21日(水) 各日15:00~
この秋は、この秋は「月光浴」を楽しもう

