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【レポート】「共遊楽器をつくる ~音を観る・触る~」サイエンスカフェ開催

2017.06.11

【レポート】「共遊楽器をつくる ~音を観る・触る~」サイエンスカフェ開催

6月11日(日) 、ものづくりを楽しむ人のためのイベント「つくると!」内でサイエンスカフェが開催されました。

今回のテーマは「共遊楽器をつくる ~音を観る・触る~」。楽器インターフェース研究者であり、感性科学博士の金箱 淳一さんをゲストに、"共遊楽器"とは何か、音楽だけでなく音のもつ可能性についてお話しいただきました。

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共遊楽器とは

金箱さんは、玩具の企画、美大助手を経て、現在は慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 研究員として活動されています。肩書きの一つ、「楽器インターフェース研究者」のインターフェースとは、何かと何かの接点を指す言葉。楽器を通して人と人をつなぐ、という研究をされています。また、音の情報を視覚的・触覚的に変換し、健常者と障害を持った方がともに音楽を楽しむための"道具"、「共遊楽器」の制作もされています。

金箱さんが音楽を始めたのは大学2年生の頃。3ヶ月だけオーストリアに留学した際、仲間と一緒にセッションバンドを組んでいました。英語があまり話せなくとも演奏を通じて相手のことを理解しどんどん仲良くなったという体験を通して、言葉によらないコミュニケーションの可能性や音楽の力強さを感じ、その経験をきっかけに楽器についての研究を始められました。

玩具の会社にて新しい玩具を考える企画部にいた際、「共遊玩具」と言われるひとつの考え方に触れたことも、もう一つのきっかけになったのだとか。身体的な特性や障害に関係なく誰もが遊べるように、形状やプロダクトのデザインが工夫されているのが共遊玩具。その共遊玩具が持つ特徴の中でも「視覚・聴覚・触覚など様々な方法でわかりやすくコミュニケーションができる」、「直感的でわかりやすい」という2つを抜き出して、楽器に適用できないかと考えたのが「共遊楽器」だそうです。

音は体全体で感じるもの

音楽というのは"耳で楽しむもの"という固定観念があるのではないか、と金箱さん。音楽は耳だけじゃなく、視覚・触覚でも楽しむことができる総合芸術なのではないかと言われています。例えばコンサートに行った時、音は空気の振動なので大きな音圧を肌で感じ、演奏者の身体の動きや視線といった視覚的な情報からも楽しんでいるのです。

音をどのように感じているかを脳の働きの視点からみると、「感覚代行」という働きがあります。目を閉じていても真っ直ぐに歩くことができるのは、三半規管や他の器官が視覚的な機能を代行しているからと言えます。

そういった仕組みをうまく使って、例えば音の情報を目で見る、肌で感じるといった聴覚以外の情報に置き換えることで、より多くの方が音楽を鑑賞したり楽器を演奏したりする環境を構築できるのではないか、と金箱さんは考えたそうです。

金箱さんが考えた共遊楽器にはさまざまなアプローチのものがあります。音を可視化させるもの、振動で音に触れるもの、衣服に仕掛けを施し楽器と人との距離を極限まで近づけた楽器をまとうもの。

耳から聴く以外のアプローチで音と触れることで、聴覚に障害があっても音を楽しめる人が増えるのはもちろん、音の持つ可能性や音と自分との関係性など、新たな視点で音と向き合うことができます。

音を通じてつながる楽しさ

今回はものづくりを楽しむ人のためのイベント「つくると!」内でサイエンスカフェが開催されたこともあり、作品のアイディア出しから、プロトタイプ制作を経て完成するまでのプロセスも詳細にお話いただきました。金箱さんの作品を使用して、実際に音に"触れる"体験をする一幕もありました。

「音楽に対しては多様な価値観が存在します。また、楽しみ方も一人一人の身体レベルによって全然違います。だからそれぞれの音楽があっていいし、それぞれの楽しみ方があっていい。そんな考え方で、共遊楽器というものを考えています。音を通じてつながる楽しさを共有できるのがこの共遊楽器の強みです。みなさんももしよければ、これから耳だけではない音の感じ方について、考えてみてくださいね。」と、プレゼンテーションを結んだ金箱さん。

健常者と障害を持った方が、"共遊"することで分け隔てなく音の体験を"共有"する。音を通じてコミュニケーションをとる。共遊楽器の考え方が広がることで、固定概念によって狭められてしまっている音の可能性が、また広がっていく気がします。

難しく考えず、自分はどんな音が好きか、その音をどのように感じているかなど、まずは音に対して興味を持ってみることから始めてみてもいいかもしれませんね。

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Mariko Tokita
ライター

2014年に東京から福岡へIターン。デザイン事務所広報・Webメディア運営を経て、現在は文具・雑貨メーカーの広報とライター業を行う。旅行と食べ歩きと映画が好き。