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【レポート】「マリンワールドは海よりも深い!?〜マリンワールドのこれまでとこれからについて語る〜」開催

2017.03.18

【レポート】「マリンワールドは海よりも深い!?〜マリンワールドのこれまでとこれからについて語る〜」開催

たくさんの方に科学を身近に感じてもらうため、福岡市科学館を盛り上げるネットワーク企画のひとつとしてサイエンスカフェが始まりました。サイエンスカフェでは月に1〜2度、福岡の課題を解決するために活躍されている方を講師に招き、トークセッションや講演を行っていきます。

マリンワールド海の中道 企画室長、岩田さんがご入社されてから今に至るまで、普段聞くことができない情報を交え、お話いただきました。今回は、バックヤードツアーのようなプレゼンを中心に、レポートします。

岩田さんは、鹿児島大学海洋生物学専攻に在学中、ダイビングのサークルに所属し、海に興味を持ったことがきっかけで、1991年マリンワールド海の中道(以下、マリンワールド)に入社。マリンワールドは1989年に開業し2年が過ぎた頃でした。その頃、1995年の二期オープンに向けて準備真っ只中。現在みなさんも馴染みのあの大きな水槽を設置する計画が進んでいました。

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飼育の深さを学ぶ

入社して最初の配属先は、魚類課、魚の飼育係です。飼育係は、魚に餌をあげる、飼育するというイメージがありますが、大水槽に必要な展示用の魚を捕まえに行くところから、水族館のキャリアが始まりました。まず、どんな魚がとれるのか、鹿児島の漁港をリサーチ。入社2年目の1993年より、毎朝地元の漁師さんといっしょに定置網であがった魚の中から、展示に適した魚を選んだり、潜って捕まえたり、釣ったりして魚を集めていました。

漁師さんはどういう魚が水族館の展示に適しているのかを知らないこともあり、係員が進んで同行していました。魚を集める約2年の間、代わる代わる係員が漁港に足を運んでいた中で、飼育できない生き物もいました。その中でも、1.8mのリュウグウノツカイを見たときは本当に驚きました。最初は、変なタチウオがいると思い、捕まえたものの、港に到着するころには死んでいて、生きたまま見れたことは貴重な体験でした。今年の4月のリニューアルに向けて、飼育係は、展示の魚の採集に行っています。

採集の後は、生きたまま運ぶため、活魚トラックの魚の密度を工夫し、長距離輸送。検疫をして水族館の裏にある予備水槽で保管しています。1995年の二期のオープンの目玉として、オーストラリアから24時間をかけ、シロワニ(サメ)を運ぶミッションを担当しました。マリンワールドに到着して、水槽の中に入れたところ、底に沈んでまったく動きませんでした。一生懸命運んだのにこれはマズイと思い、抱きかかえたところ、水面で空気を吸い込み水槽に潜っていきました。この時、シロワニは水面で空気を吸い込み、浮力調整をする特徴があることを後で知りました。

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水族館の水槽をきれいに保つには

マリンワールド海の中道には、奥行き10メートル、横幅24メートルのパノラマ大水槽があり、透明度を保つために、水槽の裏に濾過槽が使用しています。この濾過槽には、西戸崎の濾過砂を使っています。イルカの水槽には圧力式の濾過槽を、魚類の水槽には重力式の濾過槽を設置しています。最近の水族館では、狭い場所にも設置できる圧力式の濾過槽が主流です。

濾過には、物理的に水をきれいにする技術と、生物学的に魚が住みやすくする技術の2種類あり、水族館では生物学的に魚が住みやすくする技術がとても重要です。水族館では水槽にいる魚には毎日餌をあげます。人間と同じように魚も餌を上げると排泄物を出します。排泄物からアンモニアへ変化。アンモニアが増えると、亜硝酸態性窒素を経て、硝酸態性窒素に変化していきます。アンモニアと亜硝酸態性窒素は毒があって、これが増えてくると、魚が住みにくくなり、死んでしまうこともあります。このようなことがないように、今回も新しい水槽では水質を測り、魚が住みやすい環境を保つようにしています。

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生き物のトレーニングと体調管理

2006年より、海洋生物課に配属。イルカのショーもやっていたそうです。普段わたしたちが見ているショーは動物を見てもらう場と感じますが、実は、動物の能力を見てもらう場で、イルカが自然界でやっていることをショーにしているそうです。もちろん、イルカがショーに出るために事前の準備が必要で、ここにも科学があります。それは、心理学のオペラント条件付けという学習理論に基づいてトレーニングをしています。

犬笛を吹く、ご褒美として餌をあげ、トレーニングをしていて、このようなタイミングに気をつけ、生き物のやる気を出しつつ、自発的に活動できるよう心掛けています。また、イルカも風邪ひくし、病気にるため、トレーニングといっしょに、毎朝、健康管理もおこなっています。自然界の生き物は、弱っている姿を出してしまうと、他の生き物から襲われることもあるため、病気を表に出さないことが多いそうです。そこで、マリンワールドは、超音波検査や血液検査もすることもあり、病気の他に、妊娠もこのような検査で早めに知ることができます。

マリンワールド以外の活動〜日本動物園水族館協会〜

マリンワールドの業務の他に、日本動物園水族館協会の種保存事業部で、さまざまな施設で動物を増やすために、飼育管理、人口学的管理、遺伝的管理の3つのことに取り組んでいます。飼育することよりも繁殖することが難しいため、飼育管理では、オスとメスの管理や栄養への配慮から繁殖のことを考えて調査しています。徐々に繁殖は、気温、水温、日調が大きくかかわることが分かってきました。

以前、マリンワールドと海響館のスナメリの繁殖について調べる機会がありました。マリンワールドのスナメリの発情周期と時期について調べてみると、12ヶ月周期で毎年春に発情しており、しものせき海響館のスナメリは、9ヶ月周期だったことがわかりました。

周期が違えば、繁殖ができないため、マリンワールドと海響館の環境を調べてみると、マリンワールドは太陽光が入る場所で飼育し、海響館は室内で環境で、年中一定の照明で飼育していました。海響館の照明を屋外と同じような環境に変えることで、12ヶ月周期に戻り、他の施設との繁殖をするときは、このように周期や時期を調べる必要がありました。

人口学的管理として、日本動物園水族館協会では、飼育している動物について、血統登録簿で管理をしていて、血統登録しておくと、何歳ぐらいで繁殖するのかも分かってくるそうです。生き物によっては、高年齢での繁殖の場合もあるため、毎年更新しているとのことです。

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遺伝的管理として、長く生きてもらうためには、遺伝の確認も行っていて、確率での管理をしています。確率であるため、本当に受け継がれたか、厳密には分かりません。計算方法として、お父さんが何頭繁殖させたかを算出していて、協会では、一頭の場合50%、二頭の場合75%、三頭の場合85%の確率に設定。増えれば増えるほど、たくさんの遺伝子が残るという考え方です。何十頭もいるので、落とし漏れが出ないようコンピュータで計算・管理され、このデータベースから優先的に繁殖させたほうがよい生き物の情報も見ることができます。

リニューアル、これからの水族館

2014年からリニューアル担当をしています。リニューアル工事の窓口になる担当をしており、最近では、水族館の全体の企画をおこなっています。今回のリニューアルでは、「九州の海」をテーマに展示がリニューアルします。波が起こる装置の導入や九州の自然の展示もあるようです。

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今回のリニューアルで、新しい施設に生まれ変わり、もう水族館じゃないのかもしれないといった印象でした。
このあと、たくさんの質問をいただき、ひとつひとつ丁寧に回答いただいた岩田さん、本当に有難うございます。

たくさんの方の期待が詰まったマリンワールドが、4月12日、リニューアルオープンしますので、是非足を運び、生き物や自然に触れ、楽しい思い出をたくさんつくりましょう!現在のリリース情報など、マリンワールド海の中道 Webサイト を御覧ください!現場からは以上です。

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Yusuke Matsumoto
ライター

2011年より、サイエンスコミュニケーションプロジェクトRikafanを立ち上げ、科学コミュニティの活性化に努める。現在は九州大学に所属しサイエンスコミュニケーションの研究を、また、福岡市科学館開館準備室ではVI、広報を担当。プライベートワークとして、だれでも参加できるものづくり博覧祭つくると!のコミュニティ代表として、パーソナル・ファブリケーションに夢中な仲間とものづくりの未来を考える。