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【レポート】「AI × ビジネスの最前線!~福岡で広がるAI活用で未来の仕事はどう変わる?~」サイエンスカフェ開催

2018.03.07

【レポート】「AI × ビジネスの最前線!~福岡で広がるAI活用で未来の仕事はどう変わる?~」サイエンスカフェ開催

あなたが現在就いている職業や、これから就きたいと思っている職業の10~20年後はいったいどうなっているのでしょうか?「AI(人工知能)」が人間の仕事を奪うのではないか?という漠然としたイメージだけが広がっている印象ですが、多くの仕事の未来はどうなっていくのでしょうか?

3月7日(水)の夜 、福岡市科学館4F交流室でのサイエンスカフェに企業経営者が登壇。オレンジ色のホームセンター「グッデイ」を展開する株式会社グッデイの代表取締役社長・柳瀬隆志さんをゲストに「AI × ビジネス」をテーマとしたサイエンスカフェが開催されました。

福岡県では知らない人がいないホームセンターなのに

福岡県那珂川町(2018年10月1日より那珂川市へ)に本社のある株式会社グッデイは、福岡県内を中心に64店舗を展開するホームセンター。福岡県内での認知度は約97%と、知らない人はいないほど地域に根差した事業展開をし、年に1・2店舗の新規出店ペースということで、いかにも順風満帆に感じるのですが、なぜ?そしてどのように?AIを活用しているのでしょうか。

柳瀬さんは2016年に事業を受け継ぎ、「人口減少」や「ネット通販の増加」という社会変化・ライフスタイルの変化に対応すべく、新たなチャレンジとして「IT活用・AI活用・体験型の店づくり」にシフトしているという、時代に合わせた経営を行っているところから、話題提供が始まりました。

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柳瀬さんがトークを始める前に、「今日、なぜ参加したいと思ったのか?」についてポストイットに一言書いて、4人1組のグループ内で自己紹介。このサイエンスカフェに興味を引かれた視点がそれぞれ違いました。そんな多様な参加者に、柳瀬さんはどのような話を提供したのか、見ていきましょう。


統計の活用が経営の改善に

具体的にグッデイでは、どのようなことを経営の中に取り入れていったのか?柳瀬さんは実際に会社で使用しているITツールの画面も見せながら、解説していきました。

「人が行う業務と、IT化など効率を計れるシステムと、分かれていては意味がない。単調な作業や効率化できるノウハウは、人がやるよりもはるかに時間がかからないやり方があるなら、それを使えばよいだけだと思う」

この柳瀬さんの冒頭での説明から始まり、グッデイの全ての店舗から上がってくる「多様な数字」を、データ化し可視化するBIツール(※)の紹介が行われました。
Business Intelligenceの略語で、膨大なデータを可視化するITツール

現場の店舗スタッフから「気温5℃を切るとカイロがよく売れる」という感覚知の話をもとに、「気温が低いとカイロが売れるのはわかるが、気温10℃のときはどうなのか?などを知ることができれば、売上予測に役立つ」として、過去数年間分の膨大なデータを、統計学をもとにしたツールを活用して可視化できるようにしたそうです。

統計学の用語として「相関関数」「重回帰分析」なども登場、グラフに点在する点をもとに関数を導き出し、様々な商品が「気温(x)がどれくらいのときに、どれくらい売れるのか(y)が導き出せるようになる」と、実際のツールの画面を見ながらの解説に、まるで数学・統計学の授業のような風景になっていました。

そして柳瀬さんからは「人間がExcelを使って、計算したり分析することに何時間もかけていた作業を、ITツールを活用すれば数秒で終わる」と。この発言の背景にある、様々な試行錯誤や会社という組織の中で、どのようにITツールの活用を導入していったのか?という新しい疑問も見えてきます。


プログラムを書かなくても自動化できる時代の到来

今回のテーマでもある「AI」はいったいどのように活用されているのでしょうか。福岡市中央区にある株式会社グルーヴノーツという会社の「MAGELLAN BLOCKS(マゼラン ブロックス)」というAI(人工知能)を活用したサービスが、いわゆる深層学習(※)をエンジニアでなくても簡単に使えるツールとして、グッデイでも導入しているそうです。具体的にどのように活用しているのでしょうか?
※大量のデータから規則性や関連性を見つけ出し、判断や予測を行う手法。あらゆるデータをもとに「犯罪発生の時刻・エリアを予測」したり、「客の動向や売上を予測」したりなど、世界中の様々なシーンで活用され始めているAI(人工知能)を支える手法の1つ。

グッデイでは、店舗スタッフが寄せ植えを造り、その写真による「寄せ植えコンテスト」を開催、毎回人間が審査をしてきたそうです。まず、この過去の膨大な写真と審査員の評価(5段階評価)を、深層学習でAIに学習させます。そして写真をAIに評価させると...。

これまで人間の目による判断で、何時間もかかっていた店舗スタッフ人数分の写真の「評価の時間」をAIならものの数秒で処理し、かつ「あの人は上手だから」という先入観や個人的感情を入れずに「公正な評価」ができるようになるという利点が!実際にAIの評価が妥当なのか?を、同じ写真を審査員に評価してもらうと、ほぼ誤差程度の差しか出なかったそうです。これまで「評価できる人間」という限られたスキルを持つ個人に依存し、かつ時間をかけていた(人件費がかかっていた)ものが、作業時間を大幅にカットできたそうです。


ITそしてAIがますます浸透する社会で何を学べば良いのか?

柳瀬さんのお話は、すでにビジネスの現場で取り入れられている事例の1つ。今後ますます世の中のいたるところに、IT化の波、そしてAI化の波は訪れるでしょう。そのとき、我々人間はどうしたら良いのか?柳瀬さんのお話のあとは、参加者同士で「これから私たちは何を学べば良いのか?」について対話をし、学びを深めていきました。

参加者からも数多くの質問を紙に書いてもらい受け付けました。その中でも一番多かったのは「IT化・AI化のツールを社内に導入するときに、これまでのやり方を変えることへの社内の抵抗や、人間ができることをコンピューターにやってもらうことでスタッフのモチベーションはどうだったのか?」というもの。やはり社会人の多くが参加されていたためか、とても具体的な質問が多かったです。

柳瀬さんは「自分も、社員も、学ばなければならない。そのためにまずは自分が率先して使ってみる。良かったら興味のある社員に薦める。会社内で勉強会も行い、学びが早い人は"教える側に回る"ようになっていっている。」という、会社組織として学び合いが起き、それがモチベーションを維持したり、日々の業務に改善をもたらしていることが伺えました。

最後に、よく多くのメディアでは「AIが人の仕事を奪うのではないか」とありますが、柳瀬さんは実践してきた中での知見をこう述べられました。

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「人間とAIと、得意不得意がある。会社としての目的は売上をつくることだから、分業・棲み分けをし、AIなどのツールを活かせる環境づくりは"人間でないとできない"。また、これまで誰もやったことがないことを創りだすことも、人間にしかできない。」

そのヒントとして
・常に学び続けること(分からない事が、分かるようになる)
・英語(最新の情報は、英語で発信)
・新しい事を試し、体験してみる(頭で分かっていることと、自分で出来ることは大きく違う)
・人との繋がりを大事にする(詳しい人に教えてもらう、全く違う分野の専門家と意見交換する)
と具体的に「何をすれば良いのか?」について教えていただきました。

これから世界は、ますますAIという科学が浸透していく。その科学による新しい発見を行い、技術を生み出し、浸透させていくのは「人間にしかできない」。だからこそ、学び続けることの大切さを実感できた「AI×ビジネス」のサイエンスカフェでした。

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Shinichi Iwanaga
ライター

福岡テンジン大学 学長。「街がキャンパス、誰もが先生、誰もが生徒」のソーシャル大学"福岡テンジン大学"を2010年に立ち上げ学長を務める。フリーランスでありながら複数の企業やNPOの社外社員、九州大学・北九州市立大学・九州産業大学の非常勤講師など、複数の職場・仕事・プロジェクトに関わる「複業」を実践。福岡が大好きで、専門家ではないが福岡の歴史から都市の統計データも得意。