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【レポート】「世界は不思議に満ちている 〜科学的に考えること、調べることの面白さってなんだろう?〜」サイエンスカフェ開催

2017.12.20

【レポート】「世界は不思議に満ちている 〜科学的に考えること、調べることの面白さってなんだろう?〜」サイエンスカフェ開催

12月20日(水)の夜 、福岡市科学館4Fのサイエンスナビにて、2017年最後のサイエンスカフェが開催されました。
今回のテーマは「科学的に考えること」。短歌のなかに描かれる科学をテーマにした『31文字のなかの科学』で、科学ジャーナリスト賞を受賞した元新聞記者であり歌人の松村由利子さんをゲストに、"世界は不思議に満ちている"と題し、AIと文学、人間らしさについてお話しいただきました。

現代の技術が生んだ偶然短歌

2017年の年末も流行語大賞の発表もありました。シンギュラリティという言葉に惹かれたという松村さんは、AIが人々の生活に少しずつ浸透し、仕事を奪うのではいか、実は文学の世界にもAIが入ってきているのではないか、という現代の話題について話しはじめました。

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世界中の人が編集できるWEB事典"Wikipedia"の膨大な文字情報の中から、偶然に短歌の五七五七七のリズムになっている文を、コンピューターが自動で抜き出し表現する「偶然短歌」という言葉を聞いたことはありませんか?松村さんがいくつか紹介されたものの1つが「アルメニア、アゼルバイジャン、ウクライナ、中央アジア、およびシベリア」。とてもリズムが良くクスっと笑ってしまいそうですよね。この偶然短歌は一般の方よりも歌人の多くが驚いたのではないでしょうか、と松村さん自身驚いたそうです。

2017年12月に発売された「短歌年鑑」の表紙には「人工知能は短歌を詠むか」の文字が。この特集の中では、文学としての短歌というより、まるで理系の話のようなキーワードがどんどん出てくる、そして石川啄木の詩を機械学習させ、未完成の詩の続きをコンピューターに創らせる、という話もあり、AIが文学の世界でシンギュラリティを起こすのは時間の問題だと、歌人としての松村さんは感じられたそうです。

言葉が生まれ、文字が生まれ、ヒトは忘れることを覚えた

進化著しいAIと対照的に「人間の脳」はどのような特徴があるのでしょうか。そしてAIにはできない、人間の脳ができる"人間らしさ"とはどのようなことなのでしょうか。京都大学霊長類研究所「チンパンジー・アイ」にいる、2000年生まれのチンパンジーアユムくんを例に、松村さんはこう話します。

アユムくんは数字を1~9まで順番にタッチできるように訓練し、短い時間でランダムに表示される数字を、どれくらい短い時間まで順番にタッチできるか?

同じく訓練を受けた京都大学の学生と、アユムくんを比較する研究では、約0.7秒という短い時間での表示では差がないものの、わずか約0.4秒の表示では京都大学の学生の正解率が約40%に対し、アユムくんは約80%。実は人間よりもサル、サルよりもイヌ、イヌよりもトリの方が短期記憶の能力が高いことがわかってきているそうです。

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ホモサピエンスとして人類の歴史が始まり、他の動物にはない「言葉」を発明し、「文字」を発明した人間は、「文字」というメディアが出来たことにより、記憶をメディアに暗記させることを覚えたがために「忘れる」ことができるようになった。実はこの「忘れる」という行為が人間を人間らしくするのではないか、という松村さんの言葉にハっとさせられた参加者もいたようです。

AIにはない1人1人が持つ感性が「人間らしさ」

そんな人間の脳には、1人1人が違う脳内の思考回路を持っています。どれだけAIが人間の脳を模したニューラルネットワークを持てたとしても、この1人1人違う思考回路の中に、感性が宿るのではないかという提起を松村さんはします。

松村さんの著書「お嬢さん空を飛ぶ」は、大正時代から昭和初期にかけた歌人でもある与謝野晶子の評論に、世界で初めて女性パイロットとして宙返り飛行をしたアメリカ人、キャサリン・スティンソンが1916年に来日して、興行飛行をしたときのものの記事を見つけたことがキッカケだったそうです。

その評論は、キャサリン・スティンソンの「素性」について書かれており、他の評論家にはない視点であったことから、松村さん自身もキャサリン・スティンソンに興味を持ち、彼女について英語で書かれた1冊の本と出会うに至ったそうです。松村さんはさらに好奇心が強くなり、その著者であるアメリカ人に会いに行って次々に当時の一次情報であるファンレターや新聞記事などの生に近い情報に出会っていったそうです。

与謝野晶子の他にはない視点、そこで持った「小さな疑問」を繋いでいくことで出会ったキャサリン・スティンソンの素性や、彼女の来日興行飛行が巻き起こした日本人女性のパイロットという職業への熱情、新聞社各社が飛行機を使った報道合戦など、点と点が繋がり「お嬢さん空を飛ぶ」という1つの物語になっていったこと、実はこれこそAIにはできない感性「センス・オブ・ワンダー」ではないか、人間らしさなのではないか。

この松村さんの投げかけに感じたことは、人間が1日に行う数千回と言われる無意識の選択、そしてその蓄積で出来上がった思考から来る習慣、その1人1人違う人生そのものが、AIが体験できない唯一無二のドラマであり感性なのだということ。

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今回の会場である福岡市科学館4Fのサイエンスナビのコンセプトは「小さな疑問を、大きな不思議に」。松村さん自身が元新聞記者であり、高校時代からは文系であったにも関わらず科学技術庁関連の記事を書いていたこと、記者になり最初に教えられたことが「疑問を持て」だったこと、小さな疑問から繋いでいくその行為はとても科学的なことなのに、文学の世界に繋がっていくこと。今回は、松村さんが経験し手にした「文字」という武器、そして「言葉」という空間を彩る表現に、人間が人間らしく幸せに生きていくには?を考えるヒントを得たサインエスカフェとなりました。

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Shinichi Iwanaga
ライター

福岡テンジン大学 学長。「街がキャンパス、誰もが先生、誰もが生徒」のソーシャル大学"福岡テンジン大学"を2010年に立ち上げ学長を務める。フリーランスでありながら複数の企業やNPOの社外社員、九州大学・北九州市立大学・九州産業大学の非常勤講師など、複数の職場・仕事・プロジェクトに関わる「複業」を実践。福岡が大好きで、専門家ではないが福岡の歴史から都市の統計データも得意。